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大阪地方裁判所 平成4年(行ウ)52号 判決 1993年1月28日

大阪市住之江区西住之江二丁目一一番一三号

原告

中条照子

大阪市住吉区住吉二丁目一七番三七号

被告

住吉税務署長 宮崎一也

右指定代理人

山本恵三

竹田優

小山久雄

関山輝

角佳樹

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が平成三年五月二三日付けでした原告の平成元年分所得税の更正(以下「本件処分」という。)のうち納付すべき税額六九五〇万六五〇〇円を超える部分を取り消す。

第二事案の概要

一  乙第一ないし第四号証及び弁論の全趣旨によれば、本件課税処分の経緯等は次のとおりであったと認められる。

1  原告は、昭和六三年三月七日、原告の父平芳市蔵(以下「平芳」という。)が死亡したことにより他の三名の相続人とともに、別表1記載の各土地(以下「本件各土地」という。)を、相続により、取得した(共有持分四分の一ずつ)。

2  原告は、他の所有者とともに、平成元年中に、本件各土地を、第三者に売却した。

3  原告は、平成元年分の所得税の確定申告書に別表2の「当初申告」欄のとおり記載して、法定申告期限までに被告に提出した。右申告は、租税特別措置法(平成二年法律第一三号による改正前のもの。以下「措置法」という。)三一条(長期譲渡所得の課税の特例)の規定による分離課税等の特例、措置法三一条の三(特定市街化区域農地等を譲渡した場合の長期譲渡所得の課税の特例)の規定による税額計算の特例、措置法三七条(特定の事業用資産の買替えの場合の譲渡所得の課税の特例)の規定による収入金額の計算の特例、措置法三九条(相続財産に係る譲渡所得の課税の特例)の規定による所得費の計算の特例の各適用を受けることを前提としてなされていた。

4  原告は、措置法三七条の二(特定の事業用資産の買替えの場合の更正の請求、修正申告等)二項二号に該当することとなったため、平成元年分の所得税の修正申告書に別表2の「修正申告」欄のとおり記載して、同項に規定する期限までに被告に提出した。原告は、右申告書の記載にあたり、所得金額を記載すべきところに収入金額を誤って記載した。

5  右修正申告における総所得金額は、別表2の「修正申告」欄の括弧内の金額一五一万五〇〇〇円となり、これについては、同欄記載のとおり所得控除額があり、課税所得金額は、同欄記載のとおり五七万二〇〇〇円となる。これに対する税額は、同欄記載のとおり五万七二〇〇円となる。

6  原告の平成元年分の分離長期譲渡所得は、右2の本件各土地の売却によるものであり、その収入金額は、別表2の「修正申告」欄記載のとおり三億四四二三万一〇二五円であった。これから課税分離長期譲渡所得金額を算定すると、それは三億一三一〇万八〇〇〇円を下回るものではない。

7  被告は、平成三年五月二三日付けで、別表2の「更正処分等」欄記載のとおりの更正(本件処分)及び過少申告加算税の賦課決定をした。分離長期譲渡所得に対する税額は、措置法三一条により、八〇〇万円に、三億一三一〇万八〇〇〇円から四〇〇〇万円を差引いた額の一〇〇分の二五を加算した額とした。

8  原告は右7の処分に対し、別表2記載のとおり意義申立てをしたが、これを棄却する旨の決定がなされ、原告は、更に別表2記載のとおり審査請求をしたが、これを棄却する旨の裁決がなされ、同裁決は、平成四年七月ころ、原告に送達された。原告は、同年一〇月一日、本訴を提起した。

二  原告は、本件各土地の譲渡については、措置法三一条の三が適用されるべきであり、これが適用されると、分離長期譲渡所得に対する税額は、八〇〇万円に、三億一三一〇万八〇〇〇円から四〇〇〇万円を差引た額の一〇〇分の二二・五を加算した額、すなわち、六九四四万九三〇〇円となり、本件処分のうち、これに、総所得金額に対する税額五万七二〇〇円を加えた六九五〇万六五〇〇円を超える部分については、取り消されるべきであると主張する。

三  被告は、措置法三一条の三の適用を争うので、この点が争点である。

第三争点に対する判断

一  措置法三一条の三に定める同条の適用のある土地のうち、同条二項一号、二号の土地については、譲渡の時点におてい農地でなければならないことは、右各号の文言及び農地の宅地化を促進するという同条の趣旨から、明らかである。そして、農地かどうかについては、右の同条の趣旨や同条が引用している農地法との整合性の観点からすると、現況で判断すべきであって、登記簿上の地目によるべきではなく、また、現況が農地であるかどうかの具体的な基準としては、農地法の解釈が参考になるというべきであり、農地であると認めるためには、土地が田又は畑として現に耕作されているか、耕作されていないとしても、いつでも簡単に復旧して耕作することができることが必要である。同条二項三号の土地については、譲渡の時点において宅地であることを予定しているが、同号の土地に該当するためには、農地法四条一項五号の届出がなされなければならないことは明らかである。

二  本件各土地の譲渡の時点における現況は、次のとおりであると認められる。

1  別表1の順号1の土地

乙第一、第四号証、弁論の全趣旨(原告の主張及び原告の平成四年一一月一七日受付準備書面の付属書類一三枚目(表紙も入れる。以下同じ。)及び一八枚目)によれば、平芳は、右土地を、昭和五八年末ころから、日本フードサービス株式会社に賃貸し、同社は、ガレージとして、右土地を利用していたものであり、また、固定資産税も、現況宅地として課税されていたと認められる。右事実によれば、原告ら相続後、右賃貸借契約を解約して更地にしたとの原告主張の事実があったとしても、譲渡の時点において、右土地が田又は畑として現に耕作されている土地であるとか、耕作されていないとしても、いつでも簡単に復旧して耕作することができる土地であると認めることはできない。

2  別表1の順号の2の土地

乙第一号証、弁論の全趣旨(原告の主張及び原告の平成四月一一月一七日受付準備書面の付属書類五枚目以下、一二枚目及び一六枚目)によれば、平芳は、右土地を、昭和五九年一二月ころから、ヤマザキ産業株式会社に賃貸し、同社は、プレハブ造りの倉庫を建築して資材置場として、右土地を利用していたころ、昭和六三年一二月三一日限りで明け渡す旨の和解が成立したものであり、また、固定資産税は、昭和四七年度から現況宅地として課税されていたと認められる。右事実によれば、原告ら相続後、右土地の明渡しを受け、更地にしたとの原告主張の事実があったとしても、譲渡の時点において、右土地が田又は畑として現に耕作されている土地であるとか、耕作されていないとしても、いつでも簡単に復旧して耕作することができる土地であると認めらることはできない。

3  別表1の順号3の土地

乙第一号証、弁論の全趣旨(原告の主張及び原告の平成四年一一月一七日受付準備書面の付属書類一一枚目、一二枚目及び二〇枚目)によれば、平芳は、右土地を、昭和六一年ころから、駐車場にして、賃貸していたが、賃借人に対し、昭和六三年一二月三一日限りで明け渡すよう通知したものであり、また、固定資産税は、昭和四九年度から現況宅地としては課税されていたと認められる。右事実によれば、原告ら相続後、右土地の明渡しを受け、更地にしたとの原告主張の事実があったとしても、譲渡の時点において、右土地が田又は畑として現に耕作されている土地であるとか、耕作されていないとしても、いつでも簡単に復旧して耕作することができる土地であると認めることはできない。

三  以上の次第で、本件各土地の譲渡の時点における現況は農地であるとは認められず、また、本件各土地について農地法四条一項五号の届出がなされた事実も認められないのであるから、本件について、措置法三一条の三の適用はないというべきである。

四  原告は、措置法三一条の三は、宅地の供給を促進するというその目的からすると、農家が所有する現に耕作されていない登記簿上の農地にも適用されるべきであるところ、本件各土地は、譲渡の時点において、右のような性格の土地であったと主張する。右の主張の趣旨は必ずしも明確ではないが、右の主張が措置法三一条の三においては、農地の範囲を右一で述べたよりも広く捉えるべきであるというのであれば、すでに述べた理由により賛同することはできず、また、本件各土地が右一で述べたような意味での農地にあたるというのであれば、すでに述べたとおり、農地にあたると認めることはできない。

五  その他、原告は、(1)昭和六三年分の所得税の申告に際しては、別の土地の譲渡について措置法三一条の三の適用が認められた、(2)原告は、本件各土地が特定市街化区域農地等に該当するとの住之江区長発行の証明書(原告の平成四年一一月一七日受付準備書面の付属書類一六枚目、一八枚目及び二〇枚目)を有している、(3)原告は、本件各土地を譲渡する際には、農地法五条一項三号の規定による届出(原告の平成四年一一月一七日受付準備書面の付属書類一七枚目、一九枚目及び二一、二二枚目)をしていると主張するが、右(1)のような事実があったとしても、それは、本件各土地についての措置法三一条の三の適用の有無を左右するものではなく(本件各土地について措置法三一条の三を適用しないことが信義則に反するものでもない)、また、右(2)の証明書についても、措置法三一条の三の適用の有無の判断は右証明書によらなければならないとの根拠はないのみならず、右証明書には現況宅地である旨の記載があり、むしろ、本件各土地の譲渡に措置法が三一条の三の適用がないことを推認させるものというべきであり、さらに、右(3)の届出は、措置法三一条の三の適用を受けるための一要件ではあるが、この届出をしているからといって、直ちに措置法三一条の三の適用要件をすべて満たしているとか、本件各土地の現況が農地であったと認定しなければならないものがではなく、右主張はいずれも理由がない。

第四結論

よって、本訴請求は失当である。

(裁判長裁判官 福富昌昭 裁判官 森義之 裁判官 古閑裕二)

別表1

譲渡した財産の明細

<省略>

別表2

原告の平成元年分の課税の経過及びその内容

<省略>

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